多重問題解決のための諸施策提言

平成18年9月1日
佐賀消費者フォーラム(消費者問題を考える会 ・さが)
会長 岩本諭 
 

提言

佐賀県に対し、深刻化する多重債務問題の解消のため、以下の諸施策の早急な実施を提言する。

  1. 相談窓口の存在、連絡方法等をより積極的に広報すること
  2. 緊急融資制度を積極的に広報すること
  3. 緊急融資制度が利用しやすいものにするように積極的に取り組むこと
  4. 福祉制度の利用が必要な多重債務者に対してはその利用のアドバイスを積極的に行えるよう、県内自治体の多重債務相談窓口と福祉窓口との連携を実現させること
  5. 他の窓口で多重債務問題の解決が必要と分かれば、その解決のために多重債務相談窓口を紹介できるよう、県内自治体の多重債務相談窓口と他の受付窓口との連携を構築すること。
  6. DV被害者の場合のように、多重債務者用の取立からの駆け込み寺な施設を用意すること

提言の理由

1.多重債務問題の深刻さ

現在、多重債務問題深刻化している。
各種報告によれば、年間の個人破産件数は20万件の水準で推移し、経済的理由による自殺者は年間約8000人で、全国に多重債務者は200万人以上いるといわれている。
そして、多重債務問題は、借主の個人的な問題にとどまらず、自殺による一家の支柱の喪失や家計破綻による影響は、家族・親族全体に及ぶ。
また、多重債務状態に陥ると取立等によるストレスが生じる。
そのため、離婚による家庭崩壊や子どもの学費滞納による退学等が近年急増しており、ストレスから児童虐待、DVの引き金となりやすく、それらも近年急増 している。
さらに、税金滞納、住宅競売、公共料金滞納、返済金目当ての犯罪なども増加しており、多重債務問題は家庭内の問題にとどまらない、重大な社会問題である。
特に、経済基盤の脆弱な佐賀県においては、自己破産件数の人口比率では、常にワースト10に入っており、多重債務問題は深刻である。
このような深刻な多重債務問題の解決には、出資法の上限金利等の金利引き下げが極めて重要であり、佐賀県議会は、本年7月6日、全会一致で「高金利引き下げに関する意見書」を採択した。
これは、佐賀県議会が、多重債務問題の深刻さを認識し、その抜本的な解決の必要性を訴えているものといえる。
したがって、佐賀県としても、多重債務者の救済に関する諸施策を積極的に行うべきであり、以下の具体的施策についての提言を行うこととした。

 

2.県による相談窓口の積極的広報

(1)相談窓口広報の必要性

多重債務者の相談窓口は弁護士会、司法書士会、法律扶助協会、クレサラ被害者の会、消費生活センターなどがある。
特に弁護士や司法書士が受任通知を出すとサラ金業者・クレジット業者などの督促・取立をとめることができるし、任意整理等による借金の減額や、場合によっては過払い金の返還も受けられるので、相談窓口の広報は極めて重要である。
しかし、多くの多重債務者が、適切な相談窓口に関する情報に接していないため、その場しのぎの自転車操業を繰り返すなどしている。
多重債務者が急増している現状においては、行政による相談窓口の広報は必要かつ重要である。

 

(2)広報に関する県の役割

消費者に対する啓発活動については、消費者基本法において、地方公共団体もこれを推進するように努めるべき義務が規定されている(17条2項)。
そして、佐賀県においても「佐賀県民の安全安心な消費生活に関する条例」の29条において「県は消費生活に関する情報の迅速な伝達により、行政と消費者との情報の共有化を図り、もって消費生活に関する情報の提供、消費者被害についての広報、法律上の権利及び被害救済手続きについて周知を図るための啓発活動等を推進するものとする。」と規定し、県が啓発活動の推進を行うこととされている。
佐賀県では、消費生活トラブルの適切な対処法を学ぶための「出前講座」や、パンフレットやチラシ、ホームページ、パネルの展示などによる啓発活動・情報提供を行っている。
ただし、多重債務相談窓口の広報については、必ずしも十分とは言えない。
前述のとおり、多重債務問題が深刻化すれば、自殺、家出、公共料金滞納の原因になるし、犯罪等の社会不安の引き金にもなりうる。
したがって、多重債務問題を深刻化させれば、福祉予算の支出や公共料金未納の増大等といった自治体への財政的影響も出てくるのであるから、相談窓口の広報を行って多重債務者の早期救済を図ることは、自治体の財政面にとってもプラスになるはずであり 、積極的な広報を求める。

 

3.県による福祉資金貸付制度の広報

県には、母子寡婦福祉資金貸付制度があり、対象者は、多くの場合、無利子の貸付を受けることがで きる。
具体的には、

  1. 事業関係
  2. 修学関係
  3. 就業関係
  4. 医療介護関係
  5. 生活関係
  6. 住宅関係

など、貸付の対象は幅広い
他方、佐賀県社会福祉協議会のパンレットによると、生活福祉資金貸付制度には、

  1. 更生資金(生業費、技能習得費)
  2. 福祉資金(福祉費、障害者等福祉用具購入費、障害者自動車購入費、中国残留邦人等国民年金追納費)
  3. 住宅資金
  4. 修学資金(修学費、就学支度費)
  5. 療養・介護資金(療養費、介護費)
  6. 災害支援資金
  7. 離職者支援資金

などがある。
これらについては、ほとんど広報がなされておらず、 一般市民にはなじみの薄い制度となっている。
しかし、サラ金の利用者は、サラ金の広告が目に付き、しかも簡単な手続で早急に現金が手に入るために利用し始めることが多く、サラ金等の高金利の借金に手を出す前に、このような制度があることを知っていれば、多重債務に陥らずに済んだケースは相当程度存在するはずである。
したがって、県民が多重債務に陥り、生活破壊を招くのを未然に防ぐためにも、福祉資金貸付制度の広報を、県が積極的に行う必要がある。

 

4.福祉資金貸付制度の充実

前述の福祉資金貸付制度に関しては、母子寡婦福祉資金貸付制度は対象者が限定されており、生活福祉資金貸付制度は、保証人が要求されていたり民生委員への連絡が必要とされているなど、柔軟性が欠ける、などの指摘がある。
財源が逼迫という事情があるかもしれないが、多重債務状態が深刻化すると、税金滞納、公共料金滞納、学費滞納など、県の財政にも深刻な影響を与えることとなる。
したがって、県民の多くが多重債務に陥ることを防止するために、福祉資金貸付制度を利用しやすいものにすることは、県の財政に大きなプラスになる。
(当時の)厚生事務次官が各都道府県知事に宛 てた「生活福祉資金の貸付について」(平成2年8月14日厚生省社398)でも、「貸付原資の増額計画の策定」をするよう都道府県に求めている。
また、自治体によっては、前述の制度とは別に、金融機関と連携するなどして独自の福祉資金貸付制度を実施しているところもあるようである。
よって、貸付条件の面や、融資までの期間の短縮といった手続面もふくめて、福祉資金貸付制度が利用しやすい制度とするよう、県も積極的に取り組むべきである。

 

5.多重債務相談窓口と福祉窓口との連携

多重債務に陥るのは、一般に低所得者が多い。
そのため、負債の整理だけでは解決にならず、高金利の借金に頼らずに生活できるようにするためには、生活保護等の福祉制度の利用が必要な場合が少なく ない。
したがって、行政の多重債務相談窓口では、負債整理のアドバイスにとどまらず、生活の安定のために、生活保護等の福祉制度のアドバイスを行える必要性がある。
しかし、消費生活相談の専門員が、常に福祉についての専門知識を持っているとは限らず、日々の相談業務をこなしながら福祉についての専門知識を習得するのも困難であろう。
そこで、多重債務相談窓口と県及び県内市町の福祉窓口との連携が重要になる。
そもそも、消費者基本法2条において「自立の支援」がその基本理念とされ、同法5条では、その基本理念である「自立の支援」に則った施策の実施が地方公共団体の責務とされている。
そのため、経済的自立ができない消費者については、その支援を行うのが地方公共団体の責務であるから、多重債務相談において、福祉の利用が自立の支援のために必要と判断される消費者がいれば、福祉窓口との連携で、福祉の手続を促すことが「地方公共団体の責務」なのである。
この点、多重債務者に福祉制度の利用を勧めるなどすれば、ますます財政が圧迫されるので、そのようなことは現実的でない、との意見があるかも知れないが、例えば、病気のために収入が少なく、生活に困窮し、税金の滞納等ある人がいるとする。その人に生活保護等の社会給付を受給させず、行政が放置すると、病院代が払えずに病気がさらに悪化する可能性がある。そうするとさらに仕事ができずに収入が減る。すると国民健康保険税も滞納してますます病院には行けなくなる可能性が高まる。するとさらに病気が悪化し、仕事がさらに困難となる。そうなれば、滞納税金の回収見込みは絶望的となり、逆に税金や公共料金の滞納が増加する。その段階になってようやく生活保護を受給してもらっても、収入はないので生活扶助は満額となり、病気も悪化しているので医療扶助も高額になる。
逆に、早期に生活保護を受給してもらえば、一定の収入があるので、生活扶助は一部で済むし、病気も悪化していないので医療扶助も比較的少額になる。そして、早期の回復が見込めるので、収入の安定が期待でき、早期の生活保護廃止も見込める。そして、生活が安定すれば、あらたな税金等の滞納は発生しないし、過去の滞納税金の支払も期待できる。
このように、必要な市民に対して早期に生活保護等の給付を行うことは、行政の財政にもプラスになるのであり、積極的な取組を求める。

 

6.多重債務相談窓口とその他の窓口との連携

行政において、多重債務者と接するのは多重債務相談窓口と福祉窓口だけではない。
日弁連等の調査では、多重債務者の多くが税金を滞納したり、公共料金を滞納したりしている。
したがって、市町での税務窓口や公共料金関係の窓口では、多重債務者が頻繁に支払に関しての相談に訪れていると思われる。
そして、それらの窓口において、多重債務が原因で支払に窮していることが判明すれば、その解決が滞納解消の近道になることが多い。
債務の減額や取立の抑制ができれば、税金や公共料金の支払ができるようになる可能性があり、まして過払い金の回収ができればなおのことである。
ただし、税務担当の職員や公共料金関係の職員全員に、多重債務問題の専門的知識を持たせるのは困難と思われる。
そこで、これらの窓口と多重債務相談窓口が連携をし、多重債務に陥った市民については、他の窓口から多重債務相談窓口の紹介・誘導ができれば、より多くの市民を救済することが可能となる。
よって、福祉窓口以外の市町の窓口と、多重債務相談窓口との連携も重要である。

 

7.多重債務者の駆け込み寺の必要性

現在、DV被害者等のためのシェルターが各地に設 置されてきている。
多重債務者も、過酷な取立の影響で家出をすることがあるし、自殺する人もいる。
競売で自宅を失ったり、家賃滞納で借家からの退去を余儀なくされることもいる。
したがって、DV被害者等と同様、多重債務者にも過酷な取立から逃れるための駆け込み寺的な施設が必要である。
特に、生活に困窮している多重債務者が、生活の建て直しのために生活保護等を受給したくても、住居がなければ受給できないという問題もある。
よって、多重債務者の駆け込み寺的な施設の設置についても、検討する必要がある。

以上

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